
青い桜は何を願う
第7章 哀情連鎖
氷華が天祈に敗戦してからというもの、両国は、交公には異民族間の交流が認められていた。
だが、このははリーシェの側近で、彼女は、天祈の皇室付きの軍人だった。二人の関係が認められる望みはなかった。
だから二人、現実になるかも分からない、遠い来世に空想を描いたのかも知れない。
『ユリア、の……お嫁さん?』
『あ、強要は、しないからっ……。来世なんてあるはずないのに、変だね。だからデラ』
──気にしないで。
このはは、少女の開きかけた唇を、その軽口が打ち消されるのを阻止せんと、自分のそれで押さえつけた。
何を語る必要もない。少し背伸びして彼女に伝えた体温が、きっと、口先だけの言葉よりずっと確かなものを届けてくれたろう。
このはは、緑溢れる丘の上、二人を包み込む平和な風に、永遠の彼方へさらわれていってしまいたかった。
はっとして、このはは流衣に顔を向けた。
このはは、見返りのない情愛をくれた少女を知っている。
「流衣先輩……」
優しい少女は残酷だった。根なし草のこのはとは違う、貴族らしい人間だった。
流衣と同じだ。
泣きじゃくるこのはの手を握ってくれた。
慈しむように髪を撫でてくれた。
ただ話を聞いて頷いてくれていた少女は、弱さも嘆きも何もかも受け止めてくれていた。
『君のこの青い花、とても、綺麗だ。……デラ……』
ああ、そうだ。
このはは、「デラ」という名の少女だった。家名はいらなかった。
このはに、ユリアの声を、眼差しを、体温を、忘れられようはずがなかった。
リーシェを傷付けて、ユリアを裏切った。
このはは、それでもユリアが許してくれたのを、最期の瞬間まで忘れなかった。忘れられなかった。
