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青い桜は何を願う

第7章 哀情連鎖


「そうだね。興味ある。有川さんだっけ?そこのお嬢さんはいらないから、華天帝国、案内して」

「はぁ?一緒に行くって行ってるのに、私の自由を妨げるの?」

「いい加減に黙って、このは。貴女はさくらちゃんを見てて」

「じゃあ、莢がさくらちゃん見てて。私の従姉妹だって言って良いから。どうせ守衛さんに弾き出されて、ここにいたんでしょ」

「このはさ、さくらちゃんに近づけない理由でもあるの?今朝だって、さくらちゃんとわざと別行動しているみたい」

「──……」

「しつこくして嫌われた?」

 敵地に乗り込むことがどんなに危険か、このはは多分、分かっている。だから同行を願い出てくれたのだ。

 しかし、二人とも行夜の案内に従えば、その間、さくらは誰が守るのだ。

 このはを、いつもの調子でちょっとからかっただけだった。

 彼女を泣かせるつもりはなかった。

「このはっ!?」

 気が強くて傍若無人な妖精が、数秒間、流衣の隣で静かに俯いていた。

 莢は、流衣の声にはっとした。

 このはの瞳からはらはらと透明なものがこぼれ落ちて、彼女の白く血色の良い頬を濡らしていた。

「だから、だから私は──」

 ここは謝るべきなのか。

 とは言え莢には、どこに自分の落ち度があったのか分からない。

「莢に、私の気持ちなんて分かんない!」

 背を向けたこのはは校門の向こうへ走っていった。

「このはっ」

 このはを追って、流衣も校門の向こうに駆け出した。

「どうぞ、希宮さん」

 莢は行夜に外車の後部座席に促されて、そのシートに乗り込んだ。

 強烈な甘ったるい匂いが鼻を掠めた。

 スーツの肩越しで、リボンが結んである小さな鳥かごに閉じ込めてある白薔薇のポプリが、動き出す車体に合わせて揺れていた。

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