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青い桜は何を願う

第7章 哀情連鎖


 調子に乗って、女を漁りすぎたか?

 莢の頭に、顔も知らない青年に名前を知られている理由として、最悪な可能性が思い浮かんだ。

 もっとも、ここで逃げては騎士の生まれ変わりの名が廃る。

「そうだけど」

「私は、銀月善満様にお仕えしている有川行夜と申します。希宮さんに是非、ご案内申し上げたいところがございます!」

「──……」

「…………」

「……はい?」

 一瞬、話が見えなくなった。
 とてもおぞましい人名が聞こえた気がする。

「近い内、私は貴女をお迎えに上がるつもりでおりました。希宮さんは、善満様の弟君であらせられる時枝徳様と面識がおありのようで、勝手ながら、連絡先をお預かりしておりました。ですがこうして奇遇にもお会い出来ましたなら、お迎えに上がる手間も省けたというものでございます」

「え……はぁ」

「何卒、今日これから少しで構いません。お時間をいただけないでしょうか?この通りです!」

 公共の面前で深々と頭を下げられて、正直、周りの視線が痛い。

「銀月善満様の地下領地、華天帝国に……貴女とて興味はおありでしょう」

 莢は、六十度に腰を折ったまま見上げてきた行夜の双眸の奥に、ぎらりと光った凶器を見出だす。

 姉か妹の仇討ちの方がマシだった。

 莢はこのはをちらと見遣った。

「とっても興味があります。有川さん、私もご一緒させて下さい」

「えっ……?」

 このはの唐突な申し出に、莢だけでなく、流衣と行夜の目が点になった。

「善満さんって、ニュースや新聞でも話題の人じゃないですか。前にお屋敷にお邪魔した時だって、ちらっとお見かけしただけで、カリスマ性を感じました。あの、いかつい眉なんて、最高ですよね。そんな偉大な人がつくってる新しい国に、興味がない馬鹿なんていませんよ。私も拝見したいです」

「あ、あの……弦祇様?」

「このは、君これから部活」

「休みます」

 流衣までこのはを宥める始末だ。

 莢はこのはと流衣が口論を始めた傍らで、今一度、頭の中を整理していた。

 行夜の招待はチャンスかも知れない。こんな機会でもなければ、敵のアジトに潜入は出来ない。

 莢は華天を叩き潰すため、いつかその実態をじかに探って、暴いておくつもりでいた。

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