
青い桜は何を願う
第9章 かなしみの姫と騎士と
「ユリアもデラも、人生を棒に振っちゃいましたね。恋に憧れなんてしなきゃ、普通に生きていけたのに」
「虚しいだけだったら?」
「人形よりは幸せだと思います。息は出来るし、綺麗なものを眺められる。お洒落して、甘いものだって食べられます」
「君は選ばなかった」
「あの時、私はエゴを選びましたもん」
このはは嫌がる膝を鞭打って、流衣の頬に唇を寄せる。一瞬だけ、世界中の美しい花びらを集めて塗り固めた如くの質感に、触れた。
「唇じゃないんだ」
「──……」
「そういう君が、好き」
このはは、流衣の頬を覚えたばかりの自分の唇に指先をあてる。
デラはユリアに来世を夢見たプロポーズを受け入れた。つがいを気どったキスをした。
このはは、デラとは違う。
人は変わる。違うと言うなら、誰か、永遠に変わらないものをくれ。
「このはが守られるだけのお姫様なら良かった」
結った毛先を撫でられて、くすぐったさに身をよじる。それからこのはは、今度こそ腰を上げた。
「さて。頑張ってきます」
「一緒に行くよ」
「ごめんなさい。……さくらちゃんも、きっと一人で泣きたがると、思いますから」
この足で白浜を歩ける気がしない。
それで良い。急いだところで、今頃、きっとまだ莢がさくらの恋人面をしているだけだ。
* * * * * * *
「カイルと離れて、私は何度も貴方の後を追おうとしたわ。引きとめてくれた家臣がいたの。顔も思い出せないけれど、彼女のお陰で、貴方がくれたこの命、最期まで抱き締めていられたわ」
「さくらちゃん……」
「彼女に信頼を超えた想いを持った。……気がする。私には、リーシェのそんないきすぎた寂しがり屋の気質がある。だからこのは先輩に惹かれたのかも知れない。貴方を裏切る真似をした。莢ちゃんは知っているのでしょう?許せないならいっそ私を憎んで」
切なる思いは涙にとけて、さくらは喉を詰まらせた。
「気付いてたんだ」
莢の失望ほのめく声色に、さくらこそ失望した。
こんなに会いたかったのに、人違いだとしらばっくれて、挙げ句に莢は、さくらを見限ろうとしていたのか。
「気付いては、不都合だった?」
行夜と莢がどういう事情で繋がっていたか、考えてみれば分かることだ。
ただ、さくらはそんな悲しいところを推測したくなかっただけだ。
