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青い桜は何を願う

第9章 かなしみの姫と騎士と


「あっ、それから」

「もう良いです」

「このは」

「何ですか。……」

「十七回目の誕生日、このはは迎えられるね。半年先。十八回目も、その次も、その先ずっと。クリスマスや年末年始はお祭り騒ぎみたいに一緒に過ごして、くだらない夢みたいなことを神様にお願いしてさ。そういうの、憧れるんだ」

「私は……」

「美咲と過ごしたい?」

「へっ?え、あ、あの、そういう意味では」

 図星ながら今は違う。否、ここは図星と頷いておくのが懸命か。

 ずっと死ぬのが怖かった。このはは氷華の士官ではない、ごく平凡な少女に生まれて、まるで平凡な生まれとなった姫君に出逢った。
 さくらをどこまで守りきれるか分からない。今生のさだめか、それともリーシェを渇望していたデラの魂か。どちらを優先すべきか分かりあぐねて、結局、戦いの道を選べないではおけなくなっている。

「…………」

「好きな子に危険な真似させたくないってのは、エゴだな」

「えっ?」

「私は行夜が重くなる。あいつの責任感の所為で、身動き出来なくなる。あいつの忠義心と……、いや、もっと暑苦しい厚意のために。私のこのはを大事に想う気持ちと、類は違うが……」

「流衣先輩」

「君を生かしたいばかりに、いつか君を殺してしまうんじゃないかって、思う」

 流衣の声が、ユリアの声に重なって、このはの胸を締めつけた。

 薄紅色の花咲く季節、流衣は十七歳でこのはは十六歳だ。
 ユリアとデラは、次の誕生日を迎えられなかった。天から降る雪も見られないで、春を迎えられるのも待てないまま、花のように散っていった。あまりにも長かったはずの未来を離した。最後まで二人に残ったものは、いつか交わした来世の約束と、互いの体温だけだった。

『もし来世で出逢ったら、お嫁に来てよ』

 デラは、いつかのユリアの科白が決して冗談ではなかったと知っていた。現世に未来が望めないなら、来世にでも縋らなければ希望も何もなかった時代だ。輪廻の有無を考えるより、信じなければ救われなかった。リーシェとカイルも、同じ気持ちだったのだろう。

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