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スキをちょうだい。

第8章 好きをちょうだい


「だれって。こーただよ、こ、う、た!」

「こーた、くん?」

 今朝、先生の計らいでクラスメートの自己紹介を聞いた中に、そんな名前があったことを思い出す。

 ふと、校庭の向こう側から、航太の名前を呼ぶ声がする。

 航太はそれに、今いく、と返事をする。

 あぁ、この子も声をかけにきただけか。
 友だちになりたいんじゃないのか。

 期待していた気持ちが、しぼんでいく。


「かなでくんも!」


 思いがけない誘いだった。

「え」

 顔を上げたかなでの目に映ったのは、太陽のような航太の笑顔だった。

「ほら、行こう! いっしょに遊ぼ!」

 温かい手に引かれて走る校庭は、いつもよりも輝いて見えた。

 自分を見てくれた初めてのひと。
 世界を広げてくれた優しいひと。

 それからすぐに、かなでは引っ越すことになる。

 けれど、彼は夢に見続けた。

 あの輝く景色を。
 太陽のような温かな声を。

 少しずつ大人になって、その感情に名前があると知った時、彼の心は純粋に歪んでいく。

 ー航太くん。キミはボクのものだよ…‥。

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