
スキをちょうだい。
第2章 こうかい
クラスメートが帰った教室は、驚くほど静かだ。
航太は誰もいない教室の、自分の席に突っ伏している。
あの後、環が何か言ってくることはなかった。
田中は急に様子が変わった航太をみて、その理由を勘違いしたようで、
『そんな落ちこむな。女なんて星の数ほどいるさ』
と、励ましてくれた。
自分を心配してくれる優しい友だちに感謝する反面、申し訳なく思う。
ずっとウソをつかれていたと知ったら、彼はなんと言うのだろうか。
そもそも、自分が環にーー男に、特別すぎる感情を抱いているということに、どんな反応を示すだろうか。
ー普通じゃないもんな…‥。
普通。そう、普通なのだ。
『スキ』なカノジョに『スキ』と伝えることは。
だから環は普通のことをしているだけであって、そのことに、男である航太が落ちこむことはーーはっきり言って異常だ。
わかっているつもりだった。
だが、ああも見せつけられてしまっては、落ちこんでも仕方がない。
欲しくて欲しくてたまらないあの『言葉』を、聞かされてしまっては。
ーてか、学校でするか? あんなこと。
航太はもやもやする頭で思い出す。
人気のない廊下で愛し合う二人。よだれが糸を引くほどのキスをして、その後、どうしたのだろう。
ーあんな、こと…‥。
ビジョンがありありと浮かんで、ムズムズしてくるのを、航太は慌てて制する。
だが、制そうとすればするほど、ムズムズは止まらない。
「あぁ…‥、最悪…‥っ」
誰もいない教室に、航太の独りよがりな音が響く。
