
エスキス アムール
第53章 矢吹は良いやつ
「え…?」
「もう一回言ってごらん、さっき言ったこと。」
「二人で食事にいかない…」
「うん、それから?」
「外でお酒飲まない…あと、近づかないようにする…」
恐る恐る、木更津を見上げるとニコリと笑う。
どうしたらいいのかわからなくて、木更津の手を握ると、握り返してくれてホッとした。
「波留くんさ、何もわかってないんだね。」
「……」
「僕はね、もう、会うなって言ったんだよ。今の話聞いていると、二人きりにはならないけど、複数だったら会うってことでしょ。」
「それは…」
「いい?
もう一度言うよ?
…もう会うな。あいつと絶対に。」
木更津の言葉にビクリと震え、手を握り締めた。
俯くと、沈黙が流れる。
複数でもあったらいけないなんて無理だ。
そんなことできるはずがない。
「…それは…できない…」
木更津の手を強く握り締めて、小さく呟いたその言葉が、静かな部屋に響いた。
