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エスキス アムール

第53章 矢吹は良いやつ






「……離して。」

「…ごめんっごめんなさい…っ
もう、もう、二人きりで食事なんて行かないし、お酒も飲まないし、送らせたりもしないから…っお願い…お願いだから…拒否、しないで…」

「…、」



俺が夢中で言葉を紡ぐと、木更津はため息をついて俺の手を外そうとした。
外すのは嫌だと離れないようにしがみつく。


嫌だ。
離したらまた…、



「離して。」

「や、やだ…っ」

「…顔が見れないから」

「…!」

「顔が見られないから、離して」



え?

驚いて力を緩めると、ゆっくりと腕を外されて木更津がようやくこちらを向いて目を合わせてくれた。


「なに、泣いてるの?」

「だ…って…」


俺が涙を流していることに、微笑んで拭ってくれる。
ああ、木更津だと、ホッとして余計に涙が出た。


「もう、食事は二人で行かない…っ」

「…うん」

「お酒も外では飲まない…っ」

「…うん」

「近づかないようにもする…っ」

「うん」

「だから…っ」


俺の話を優しく微笑んで聞いてくれている様子を見て、許してくれるのだと思った。
キスを落として、抱いてくれるかもしれないとも思った。


だから、だから…と続けたけど。






「波留くん、本当にそれで許してもらえると思ってるの…?」




木更津から帰ってきた言葉は、思いがけない言葉だった。














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