
エスキス アムール
第53章 矢吹は良いやつ
この間もそうだ。
どうして僕が矢吹と会うなと言うのかもわからないのだろう。
それに加えて今はお酒を飲んでいる。
思考回路もままならない状態だ。
必死に頭の中を整理しているのだろうけど、追いついていないようだった。
「……あ…や、やぶきは…あの、その…こーへいがおもってるような、やつじゃなくて…っあの、ほんとに…いいやつ、で…っなにも…なにも、ないんだ…きょうも、きょうも、おさけ、のんできただけ…」
「…そう。それだけ。それだけね。」
「…ご…ごめんなさい…っで、でも…」
「もういい。」
「きさらづ…っあの…っ」
「もういい!!
……お前がそう思ってるならそれでいい。
僕よりもあいつを信じればいい。」
波留くんのつかんで来た手を盛大に振り払う。
こんなにも人に腹を立てたのは初めてだ。
このままだと波留くんを壊しそうで。
傷つけそうで。
泣きそうになりながら、家を飛び出した。
