
言葉で聞かせて
第13章 言葉で聞かせて
敦史は携帯を開いて今日出勤出来なくなった旨をお客さんたちにメールをしている
僕も同じようにしていると
「お待たせしました」
と看護師さんに呼ばれた
こちらへどうぞ、と通されたのは1番と書かれた診察室
「男性だけなんて珍しいですね」
黒髪のオールバックに細い銀フレームの眼鏡
穏やかな笑みを浮かべるその男性は40代半ばぐらいだろうか
「どうぞ、お座りください」
「……」
一脚しかなかった椅子の隣に看護師さんがパイプ椅子を持ってきてくれた
「ありがとうございます」と言うと顔を真っ赤にして去っていった
二人揃って椅子に腰掛けると、先生が「本日はどのようなご用でしょうか?」と問いかけてくる
「見た目でわかるかもしれませんが、僕たちはホストをやらせて頂いています」
「えぇ。そうですね」
『長野』と書かれた社員証のようなカードを首から下げた先生がにこにこと笑っている
ホスト二人が突然押し掛けてきたら普通もっと驚くんじゃないかな
「それで、僕のお客さんにエリカさんと言う女性がいらっしゃるんですが、その女性が妊娠を訴えてきたんです」
「そうですか」
尚も先生は微笑みを崩さない
