
言葉で聞かせて
第13章 言葉で聞かせて
不安から口を突いて出た僕の質問に、敦史がうつむき気味だった顔を上げた
その目にはどこか決意のようなものが滲んでいる
「おろさせろ」
「……」
「悠史」
それしかねぇだろ、と語ってくる敦史と目が合わせられない
だって
「それは……殺すってことだよ……」
「んなことはわかってる」
「………………できないよ……」
「悠史!!」
「……」
良い機会なのかもしれないな
蘇ってきたのは昨日敦史の優しさに触れて見えなくなっていた自分の暗い考え
2人から離れる理由ができた
思い合っている2人の邪魔にならずに、いなくなれる
僕は机の下の見えないところで手を握った
爪が食い込んで少し痛いけど、その痛みが意識を鮮明に保ってくれている
「ねぇ敦史」
「あ?」
敦史が見るからに苛立っている
どうやって嘘を暴こうかって考えてくれてたのかな
敦史は優しいから
僕はそんな敦史に幸せになってもらいたいんだよ
「僕、あの家を出ようと思う」
「!?」
敦史の驚いた顔
その顔がどんどん戸惑いと、怒りの色に変わっていく
ちょっと面白いなんて言ったらきっともっと怒るだろうな
そんなこと考えて心の中で笑っている自分の心境がわからない
