
言葉で聞かせて
第13章 言葉で聞かせて
だけど僕が悩んで出した答えをひっくり返す悪魔はすぐそこまで来ていた
慎重に、慎重に
静かに
ゆっくりと、しかし着実に近づいてきた魔の手は一瞬で全てをさらっていったんだ
朝起きて、隣に千秋さんがいないのを少し寂しく思いながら伸びをする
廊下に出れば漂ってくる朝食の匂いに寂しさを飛ばしてリビングへ
「おはようございます、千秋さん」
「おはようございますっ」
僕に向かって微笑んだ千秋さんを少しの間だけ眺めたら机の上の新聞紙を手に取る
ソファに座ってそれを開き、昨日までチェックしていたニュースの続報を確認
あれ、株価が落ちてきてるこの会社って
確かお客さんにいた……?
目に付いた会社の名前を見て何度も贔屓にしてもらった女性の父親が経営している会社だと思い出す
まぁ、この程度なら大丈夫でしょう
お父様はちゃんとした方だと仰ってましたし
大して興味があるわけでもなかったから次のページへ
するとリビングのドアが開いた
「おはよう、敦史」
「あぁ」
無愛想に返事を返してくる弟に昨日の寝る前の記憶が蘇ってきて、少し笑う
目ざとくそれに気がついた敦史が「何笑ってんだよ」と不機嫌に言いながら僕の隣に座った
