
言葉で聞かせて
第12章 忘れられないこと
「……続けるぞ」
俺には今は何も言ってやれねぇから
「はい。お願いします」
「そいつが……彼女だった女が去って、俺はさらに荒れた。街中で目があったやつ全員に喧嘩を売ってはボコボコにしてやった」
最低だな
警察のお世話になったことはねぇんだから、俺も運がいいけど
今思えば、悠史が手を回してたのかもしれねぇな
悠史はまた俺の様子を伺って黙っている
「そんな俺がある日喧嘩を売っちまったのは、ヤクザの下っ端でな。下っ端ってだけあってそんな強くもねぇ奴らだったが、人数が今までと桁違いだった。その時俺は初めて喧嘩に負けて、病院送りにされたんだ」
「……っ」
千秋が息を飲む
怪我なんか残っちゃいねぇから、悟る余地もなかっただろうな
「目が覚めたら病院の真っ白な天井が見えた。で、その視界の隅では……悠史が泣いてた」
「……」
悠史が辛そうに俯く
当時を思い出しているのか
この先の話をすることを恐れているのか
「考えてみれば悠史は俺が原因で泣くことなんてほとんどなかった。俺がどんなに殴っても、シカトしても、泣いたことなんかなかったんだ。その悠史が泣いてた」
千秋の目が潤んでいる
