
言葉で聞かせて
第12章 忘れられないこと
深夜になり、閉店まであと少し
店に残っているのは俺の客だけ
「ーーそれでね、ーー」
周りに他の客がいないのを気づいているのかいないのかひたすら喋り続ける女の足元に黒服が跪いた
「失礼致します。お客様申し訳ございません。閉店時間となりますのでお会計をお願い致します」
「あれ!?もう!?はや〜い」
そう言って腕に着いた数百万の腕時計を見た女は黒服に黒いカードを差し出す
「はい」
「お預かり致します」
「ねぇ流星?今日って、アフター空いてる?」
机の上の酒を片付けだした俺に女が囁きかけた
「……悪い。今日は先約あんだわ」
「もぉ、最近いっつもそう!」
「また今度な」
「前もそう言ってた!」と怒り出した女は俺が立ち上がると一緒に立ち、腕に絡まってくる
「次来た時は絶対、ね?」
「あぁ」
かわいこぶったそいつの額にキスをしてやると、上機嫌に帰っていった
仕事終わっちまった
早かったな
その辺のソファに適当に腰掛けると悠史が寄ってきた
「敦史、帰ろ」
「あぁ」
「千秋さんからメール来てた」
「へぇ」
「夕食作って待ってる、ってさ」
もう日付も変わるが、今日の勝負はこれからだな
