テキストサイズ

言葉で聞かせて

第10章 再来

敦史目線

俺の目の前にはもう立っている男はいない

白く霞んでいた視界が晴れて徐々に理性が戻ってきた


「ふーーー……」


肺の奥底から息を吐き出して振り返る

目の前で繰り広げられた惨劇に腰を抜かした女が座り込んで震えていた


「……なぁ」
「やっ……ぁ……」


俺が近づいて声をかけると女は身体を大きく揺らして俺を怯えた目で見上げる


「お前、千秋が事故にあったの知ってるか?」
「……えっ……じ、こ……?」
「あぁ。それで今記憶喪失なんだよ」


女は千秋を見た
千秋は女が最も強い時期の記憶を留めているせいで女と同じぐらい怯えた目をしている


「今の千秋には5年前までしか記憶がない」
「5年……前……」


何考えてんのかわかんねぇ
仕事だったら読めんだろうけど

イライラしすぎて
だめだ


「おい」
「……っ」
「お前こんぐらいでそんなビビってるくせにこんなことやってんのかよ?」
「……」
「千秋が事故で死んでたら、俺はここにいるやつら全員殺してたぞ」


俺の言葉に怯えの色を濃くした女は千秋を睨みつけた


「だって!!羨ましかったんだもん!!ちーちゃんは何でも持ってた!!友達もお金も全部!!!」

ストーリーメニュー

TOPTOPへ