
言葉で聞かせて
第10章 再来
千秋に事の顛末を説明した悠史は精神的な疲労から大きくため息をついた
「はぁ……」
「悪いな。全部説明してもらって」
「いいよ。敦史説明下手だもんね」
うっせ、と返すと悠史が微笑む
それをじっと見つめると目が合った
ーー本当に何も覚えてねんだな
ーーうん。でも昨日よりずっと安定してて良かった
ーーだな
暫くしてゆっくりと開いた扉を見ると俺たちが持ってきた服に着替えた千秋が立っていた
着てた服は汚れてたり微妙に破れてたりで着れねえからな
悠史は客にするみたいな笑みを千秋に向ける
「行きましょうか」
「……ほら、荷物よこせ」
俺たちが先に歩き始めると千秋はペンギンか何かのように後ろをついてきた
俺だったらどうなんだろうな
起きたら病院で、5年分の記憶がなくて
正確には年下なんだが年上の義兄がいて一緒に暮らしてるとか
……
とりあえず説明したやつを一発殴るな
俺は振り返って俯きがちに歩いていた千秋の頭を撫でた
「!」
「……心配すんな。俺たちはお前を傷つけたりしねぇから。ちゃんと守ってやるから」
俺の言葉に目を見開いた千秋は記憶を失ってから初めての笑顔を見せた
