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言葉で聞かせて

第10章 再来


俺たちの異様な空気を察したのか運転手はスピードを少しだけ上げて、さらに渋滞にも引っかからずに着いた

「釣りはいらないから」と適当に財布に入っていた金を出してタクシーを飛び出す

金を払っていた俺より早く車を降りていた悠史が先に病院の受付で病室を聞いていた


「はい。ありがとうございます。敦史」
「あぁ」


病院内だから走ってはいけない
しかし不安でしょうがなくて自然と小走りになる


『小野寺千秋』と書かれた病室をようやく見つけると、そこの前にいつか見た男が立っていた


「田中さん……!!」


田中?

あぁ……
千秋の担当編集、だっけ?


「あ……来てくださったんですか」
「千秋さんの容体は?」
「それが……」


田中はそう言ったきり俯いてしまった


「「?」」


なんだ?

早く言えよ
うぜぇ


「……」
「あっ……敦史」


俺は待ちきれなくて病室の扉を開けた

大部屋でなく個室の病室は部屋の中にベッドと棚がいくつか置いてあるだけの無機質なもの

ベッドの上には窓を向いて座る千秋がいた


「千秋!」
「千秋さん!」


俺たちが駆け寄ると千秋はゆっくりと俺達の方を向く

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