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言葉で聞かせて

第9章 鳴き声、泣き声


営業時間が終わり、控え室に戻ると敦史に今度は僕から声をかけた


「敦史」
「あ?」
「僕先に帰るね」
「あぁ。俺はアフター行ってくるから」


そう言ってロッカーを閉めた敦史にまた微笑む


言いつけ守ったのかな?
えらい


多分そんなこと口に出したらまた暴力を振るわれるから言わない


「うん。じゃあね」


最後は答えが返ってくることはなかったけれど、僕は気にすることなくお店を後にした



「ただいま」


家に入って帰宅したことを千秋さんに知らせると、今日初めて顔を見た千秋さんがリビングから顔を出す


「おかえりなさい」


あ、そっか
声が出るようになったんだった


そんな大事なことも忘れてしまっていた


僕は微笑みかけてから、1度部屋に入る

スーツをハンガーにかけて、Tシャツとスウェットに着替えた

リビングに戻ると千秋さんがちょうど最後のお皿を運んできたところみたいだった


「美味しそうですね」


僕が素直な感想を言うと千秋さんは嬉しそうに微笑んで


「僕、悠史さんにそう言ってもらえるの本当に嬉しいです」


と言う


前の千秋さんを否定するわけじゃないけれどやっぱり話せる方がいいな、なんて思ってしまう

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