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言葉で聞かせて

第9章 鳴き声、泣き声


仕事場に入り皆に挨拶をしながら歩く
控え室に入って着替えをしていると敦史が後ろから声をかけてきた


「悠史」
「敦史。おはよう」
「あぁ」


何か言いたげな敦史は僕の隣で髪の毛を直している


「何か言いたいことがあるんじゃないの?」


目をそちらに向けることもなく僕が尋ねるけれど、敦史はまだ黙ったまま


「……」
「ふふ」


言いにくそうに黙っている敦史がなんだか可笑しくてつい笑みがこぼれた


「……んだよ」
「だって何か気持ち悪いんだもん」
「あ?」
「僕の横で露骨に時間潰しちゃって」
「……っせぇな」


だってそもそもそこまで髪型ばっかり気にするタイプじゃないでしょうが


僕が微笑みながら髪型を整えていると、僕の方を横目で見た敦史が舌打ちをした


「チッ…………悪いことしたなって思ったんだよ」
「ん?」
「昨日のこと。……それで朝先に出たんだろうが」


……あぁ、やっぱりバレてたのか
でも別に敦史に怒ってるわけじゃないし

だから少しだけ、嘘


「気にしてないよ。ただ単に朝早く目が覚めたから久しぶりに出掛けたくなっただけ」
「……」
「嘘じゃないよ?」
「そうかよ」

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