
言葉で聞かせて
第9章 鳴き声、泣き声
僕がコーヒーを飲みきり、伝票を持って立ち上がると「待って下さいっ」とレイナさんは僕を引き留めた
「連絡先だけでも、教えて頂けませんかっ?」
「いいですよ」
僕は名刺を取り出して彼女に差し出す
そこに書いてあるのは仕事先である「ange」の名前と僕の源氏名、それからお客様全員に教えるメールアドレス
「どうぞ」
「ぁ……」
プライベートな連絡先とは明らかに違うそれを受け取って、レイナさんは動揺した様だった
まぁプライベートで誘ったのにそんな仕事用の連絡先を教えられるなんて思ってもいなかったんだろうけれど
「それでは僕はこれで」
僕がその場を去ろうとするとまた後ろから「あのっ……」と止められた
「また……会ってくれますか……?」
僕は菜摘を思い出す
女性関係でまた千秋さんを苦しめるわけにはいかないよね
もしかしたら敦史の時みたいに嫉妬してくれるかもしれないけれど
って、こんな考え最低
僕は穏やかな微笑みを浮かべた
「えぇ、もちろん。ホストクラブ「ange」でいつでもお待ちしております」
「っ……」
レイナさんは悲しそうな顔をした
ごめんね
