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言葉で聞かせて

第7章 過去


敦史の要求に千秋さんは小さく頷いた
そして


『短い話ではないので少し待ってください』


とメモ帳を抱えるようにして書き始めた


千秋さんが恐れているもの
そして
千秋さんが話すことができなくなった理由


僕の心臓は何故か鼓動を早めていた


敦史が淹れてくれたお茶を一口飲んでから自分を落ち着けようと視線を彷徨わせる


何か考えていないと落ち着かないな
明日……いや、もう今日か
今日お店にいらっしゃると言っていた顧客名でも思い出そう


端から名前と顔を頭に浮かばせているとふと


敦史はどうしてこんなに落ち着いていられるのだろう、と思いまだ立っている敦史を目だけを動かして盗み見る

すると

やはり敦史も落ち着かないらしく、組んだ腕の指がずっと腕を叩いていた


やっぱり
敦史だって緊張するよね


その姿に笑いを誘われて僕はなんとか落ち着きを取り戻すことができた

その間にも千秋さんは淡々と書き続けている


どんな辛い過去を過ごしてきたのか人に話すことはなかなかに辛いものがある
それは僕の性癖も同じで、カミングアウトするのには相当な精神的苦痛を伴う

そんなことを今千秋さんに強いているのかと考えて、少しだけ心が痛んだ

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