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言葉で聞かせて

第7章 過去

自分の性癖のため好んできた人の体液を拒絶したくなったのは初めてだった

基本的によっぽどのことがなければ誰とでも性行為をする僕は好き嫌いなんて持っているわけがない


まして相手は元々は恋人だった女性だ


でも今

吐き出したくなるくらいの嫌悪感に溢れていて

性癖が治ったのかとも思ったけど明らかに違う
胸の内で渦巻く感情はまだある

ただその矛先が変わっただけ


あぁ僕

もう千秋さんにしか本当の意味で欲情しなくなったんだな


あんなにも綺麗で、才能があって
そしてあんなにも心優しい人
千秋さん以外いるわけない


僕はゆっくりと瞼を開けた

するとそれに気がついた菜摘が嬉しそうに微笑む


「あ、起きた?おはよう」


おはようございます、なんて呑気に返す精神的余裕ももうない


「この紐、解きなさい」


怒りとともに口から出た声は想像以上に低くて、それを間近で聞いた菜摘も驚いた顔をしている


「え?」
「それから敦史も、千秋さんも、解放しなさい」
「……」


菜摘は静かにベッドから下りた


「嫌よ。絶対、嫌。悠史が私のものになるまで絶対あなた達を帰さない」


菜摘がそう言った直後に僕の後ろから微かに声がした

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