
言葉で聞かせて
第7章 過去
少しの呼び出し音の後、電話が繋がった
『もしもし?』
「敦史?今大丈夫?」
『あぁ。ちょうどホテルから帰るところだ』
「良かった。……ねぇ敦史。やっぱり早く行動を取るべきだったのかもしれない」
『は?』
うまく説明出来るといいんだけど
僕は今日偶然千秋さんの裸を見てしまったこと
そしてその身体に無数の傷がつけられていたことを簡潔に話した
僕が話し終わるとそれまで黙って聞いていた敦史は静かな声で言った
『すぐ帰る』
「……うん……」
電話を切って、ソファに腰掛ける
敦史が帰ってくるまでの間に、僕が出来ることをしなくちゃ
といっても、ひたすら考えるだけ
どうして千秋さんが突然何者かに暴行されているのか
そして、どうしてそれをひたむきに隠す必要があるのか
さらにもう一つ
さっきのあの反応
明らかにこの短期間に植えつけられたとは考えにくいほどのトラウマを抱えている気がする
それも、上手く取り除ければいいんだけど
そしたら
もしかしたら
千秋さんに声が戻ってくるかもしれない
僕は敦史の帰宅を待つ間に千秋さんの様子がおかしくなった時まで記憶を辿ってみることにした
