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言葉で聞かせて

第7章 過去

「開けて下さい……開けて。千秋さん」


浴室には簡易的だけど、鍵がかかるようになっている
その鍵が今は閉まっていて開ける事が出来ない


「貴方が傷つくのを見ているのは嫌なんです。迷惑でも構わない。貴方の助けになりたい……」


涙が止まらなくて、声が自分でも驚くほど震えている

顔を上げているのが辛くなって俯くと、床に垂れる涙が見えた



すると


カシャン、という微かな音がして遠慮がちに扉が開いた

顔を上げようとすると身体を見られるのを拒むように抱き締められた


細い身体を抱き締め返して、手の届くところにあったバスタオルを取って千秋さんの身体を包み込んだ


「……辛い思いさせて、ごめんなさい」


僕が謝ると、腕の中で千秋さんは首を横に振った



早く、この温もりが僕のものになればいいのに

思いを押し付ける気は全くないけど、少し欲が出た



今まで彼女、と呼べる人は何人かいたけど
その人たちへの思いが霞んで見えるくらい

執着してる


大事にしたい

大事にしたい


けど、この腕の中に閉じ込めてしまいたいって思いもある



思いを押し付ける気は無い

だからせめて、この人が傷つくことのないように守ることくらい

してもいいかな

気持ちを伝えるくらいは、したい

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