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20年 あなたと歩いた時間

第12章 君が生きた日々

「流星…無理、して」
「ん…」
「今日だけ…無理して」
「…どうしたん?」

そう聞いてものぞみは首を横に振るだけ
だった。
西医体が終わったら、のぞみのために無理を
すると約束したのは僕だ。
その約束を反古にしたわけではないけれど、
守れているとも言えなかった。

「のぞみ…ありがと」
「なんで?」
「ちゃんと言ってくれたから。おれ、頭ん中、のぞみでいっぱいだ」
「うそ、だめ、そんな」
「いーんだよ。いっぱいにさせてよ…な…?」

二人が立つと余裕のない玄関で、僕は
いつまでものぞみを抱きしめた。

「圭介くんに…電話しないの?」
「いいよ、もう。わかってるよ…きっと」
「…ん……っ」

僕はその夜、『そういうこと』をのぞみとして
心の平穏を取り戻した。
心の中に、のぞみが満ちていくことが僕に
とってどれだけ幸せなのか、痛いほどよく
わかった。


翌日、大学に行くと掲示板に呼び出しが
あった。

「うわ、十河先生から呼び出しやん。なん、
どうしたん?流星」

圭介が先に見つけて驚いている。

「さあ…何かな。とりあえず行ってくる」

僕は学食に行く途中だったのも忘れて、
十河先生の部屋に走った。もしかして!
在室、の札を確認してドアをノックすると、中からどうぞと声がした。

「おお、流星くん。ちょっと座って」

十河先生は数冊の医学書を抱えて、天井まである本棚の梯子の途中にいた。

「ねえ、あの仮説どうしたの?詳しく聞かせてよ」

前置きも呼び出した理由もなく、いきなり本題だった。
あの仮説、とは 。



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