
20年 あなたと歩いた時間
第12章 君が生きた日々
「今日ね、」
「あのさ、」
同時に言いかけて、二人とも引いた。
「いや、おれのは大したことないから」
「私も…何でもない」
コーヒーがふたつ載ったテーブルを挟んで、僕とのぞみは黙ってしまった。どうして急に会いたくなったのだろう。
僕は、身を乗り出してのぞみにキスをした。触れるか触れないかの、キス。
「流星…」
「ん?」
「…すきだよ」
「うん…」
かなわない。
そう思った。
のぞみはいつも、その時僕が本当に聞きたいことを言ってくれる。今も、そうだ。
「疲れた?」
「いや。のぞみの顔見たら、復活した」
「泊まる?」
「今日は勉強したいから、帰る。…って、あー!泊まっていきたいけど!」
「流星らしい。自分が決めたことは守るんだね」
「そういうんじゃないけど…今日は圭介と約束してんだ」
医学部の連中は全員がそうだろうけれど、 圭介も僕も、本気で医師になりたかった。僕らは心底大学の授業が楽しかった。国家試験に受かりさえすればいい、と思っているのは間違いないけれど、日進月歩の医学の世界にもっとどっぷり漬かっていたかった。
「帰るよ」
「うん。気を付けてね」
「あのさ、」
玄関で靴を履き、立ち上がるとのぞみの顔がすぐそばにあった。
思わず僕はのぞみを抱きしめた。
