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20年 あなたと歩いた時間

第12章 君が生きた日々

「けどそれが普通なのかなとも思う。おれらみたいに、ガキの頃からずっと一緒なんて、その方が特殊っていうか」

要は、氷の溶けかけたウーロン茶を喉に
流した。

「しかも、その中で彼氏彼女とか、結構引かれるんだよな。あからさまに」

それは僕の知らない要の表情だった。まだ
中学生だった頃、のぞみの弁当をからかった
クラスの連中に殴りかかった要はもう、
いなかった。

「トウキョウに圧倒されちゃってるワケですよ、僕は」

真緒も、僕らも、家族もいない土地で、要は
孤独なのだろうか。

「あのさ、要」
「ん?」

バイトの女の子が、マヨネーズかけますか?と
言って、お好み焼きが出来上がった。
僕は割り箸をパチンと割りながら、でも要の
目を見て言えなかった。

「いつか、絶対帰るから。おれたちが生きてく場所って、あの街しかないだろ」

なぜ、こんな無責任なことを言ったのか
わからない。
僕はどこで医師として自立していけるのか、
そんなことは全くわからないのに。
心のどこかで思っていたのだ。
あの街で、僕は終わるのだろうと。でも、
終わるとは、まだ思いたくなかった。
あの街で、生きていくと思いたかった。
店を出ると、10月下旬の夜は肌寒かった。
河原町まで要を送る道すがら、多分僕らは
同じことを考えていた。 きっと、下らない
僕らの思い出。

「じゃあな。…おれとのぞみは、帰るの年末かな」
「ん。じゃ、そん時だな、四人は」
「真緒によろしく」
「のぞみにも」

要と別れて、反対方向の電車に乗ると、
窓に映る自分が、思っていたよりも
頼りなく見えた。
いつの間にか見てくれだけは大人になった
けれど、中身は全然ブレまくりで、自信が
ない。
先生。僕はこんなでしたか?
未来とか手に入れたいものとか、なりたい
自分とか。
本気で叶うと信じていたのは、ほんの
何年か前のことなのに。
気がつくと、のぞみの部屋の最寄り駅で
降りていた。

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