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20年 あなたと歩いた時間

第12章 君が生きた日々

のぞみと一緒に暮らせば、たとえ忙しくても
1日1回は会えるだろう。
…一緒にいたい。のぞみと。

「じゃあな、また後で」
「おう」

圭介が出ていった食堂は、すうっと風が吹いて
なぜか僕を焦らせる。

「…秋、か」

去年の今頃は、何をしていただろう。精神的に
参ってたのがマシになって、でもツラくて
自分のことしか考えられなくて、のぞみと
別れたんだっけ。
あれからまだ、1年しか経っていないなんて。
テレビを消して、タオルを首にかけて洗面所に
向かう。気になることがひとつだけある。
膝が、時々痛む。
夏に走り込んだせいか、気候のせいか。
一旦考え始めると、頭のなかが支配されて
いくのにそう時間はかからない。
だからわざと別のことを考える。

「『しーんぱーいないからねー きーみーのーおーもーいーがぁ』」

わざと大きな声で歌う。

「流星、何やねん。ご機嫌やん!微妙に古いし!」

まだ玄関にいた圭介が、叫んだ。

「早く行けってー」
「はいはい、じゃあな」

僕はこんなとき、とても一人ではいられないと
思う。
いたくない。
雨が過ぎる度に涼しくなって、移り変わる
季節を体感すると、終わりに近づくような
気がしてこわい。
僕が、一番恐れている『終わり』に。


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