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20年 あなたと歩いた時間

第2章 16歳

翌日の夕方、流星は約束通り迎えに来た。
きれいに洗った空のお弁当箱を持って。

「うまかった。ありがとうな」
「うん。あ、上がって待ってて。夕飯の支度
もうすぐ終わるから」


後からリビングに入ってきた流星が
ソファに座って、手元にあった新聞を
読み始めた。長い脚を組んで、広げた新聞に
顔が隠れたのをいいことに私はしばらく
その姿を眺めていた。
お母さんがまだ元気だった頃、こんな風に
料理をしながらお父さんを見ていた。
私はそんな二人を眺めながら、
食卓でいつも絵を描いていた。幸せな、
家族の時間がここにあった。

「要にさ、」
「ん?」
「今年の花火大会は真緒と行きたいから、誘うなって言われたんだ」

新聞を閉じて、丁寧に畳んでから流星が
言った。

「あいつ、やっと動き出したな」

流星はうれしそうに笑いながら、頭の後ろで
手を組んでソファの背に体を預けた。
だから流星は、昨日『二人で行こう』と
私を誘ってくれたのだ。
合わせた調味料をざっとフライパンに
流し込んで、少し待った。
そうか、要が真緒を。
喜んでるだろうな、真緒。

「終わった?」
「あ、うん。行こうか」

いつの間にかキッチンに来て、後ろから
のぞきこんでいた流星に気づいた。
耳元に、流星の体温を感じるほどの距離。
ガスの火を止めてフライパンに蓋をすると、
エプロンを外した。
その時、ドーンという花火があがる音が
聞こえた。

「始まったよ」

あわてて靴をはき、川原まで走った。
毎年欠かさず四人で見てきた、花火。
帰りには必ず綿飴を買って、
口や手をべたべたにしながら歩いた。
紺色のポロシャツの背中を追いかけて、
二発目の花火を見上げたとき、
私達はたくさんの見物客のうちの二人に
なった。

「はぐれんなよ」

そう言って流星が左手を差し出さした。
しっかりと、握られた手が今までよりも
ずっと大きく温かいことを感じながら、
私は真緒もこんな気持ちで花火を
見上げているだろうと思った。
いくつか続けざまに上がっていた花火が
途切れた頃、ちょうど二人が座れそうな
スペースを見つけ、土手に腰を下ろすと、
自然とつないでいた手はほどかれた。

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