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20年 あなたと歩いた時間

第12章 君が生きた日々

「…最近どう?学校とか、部活とか…」

狭いベッドの上で、のぞみは布団を顎まで
引っ張りあげて聞いた。
隣で寝転ぶ僕は、できればもう一回したくて
のぞみに軽くキスをしたり髪を撫でたりして
いる。…とは言えない。

「いつも通りだよ。高校の延長みたいな講義受けて、練習して…あ。来週から合宿なんだ。8月の西医体頑張るから」
「あ、そっか。楽しみだね」
「なんか、みんな真剣すぎておかしい」

この西医体という、西日本の医学部が参加する
体育大会での成績次第で、学内での位置が左右
されることもある、らしい。
その昔、全医体で活躍した教授などは早々と
講義を調整し、練習に打ち込ませてくれる。
医学部とは独特の雰囲気がある。

「久しぶりだね、試合」
「試合。うん」

出るからには、勝ちたい。
でも、何だろう。
もう以前のような気概はない。走ることで得た
解放感も、ない。
僕のなかから「走ること」が消えていきそうな
気さえする。

「流星、私ときどき練習見に行ってるんだ」
「え、うそ」
「ほんと」

のぞみはちょっとあっち向いてて、と言って
胸を布団で隠したまま散らばった服を集め
始めた。
どうして、脱いだ服って少しけだるくて
後ろめたいのだろう。

「…だって、そうでもしなきゃ全然流星のこと見られないんだもん…」

後ろでのぞみが言った。そんな。黙って練習を
見にくるなんて。そんなことしなくたって。

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