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20年 あなたと歩いた時間

第12章 君が生きた日々


「ん?…えっと」

でも、その人は僕が口を開くより前に言った。

「…流星くんか?」
「はいっ…!」

時間が、ものすごいスピードで早戻しされる。
あの夏、逆光の中で僕に可能性という言葉を
口にした人。

「ああ。もう大学生か…そうか。いや、大きくなったね…」

おととしの夏、通っていた予備校での講演を
聴いた時以来。でも声はかけられなかった。
8年ぶりに交わした、懐かしい笑顔。

「先生…あの、この講義、とってないんです。まだ1年生だから…それで、今日この時間がたまたま休講で」

なぜか緊張して、しどろもどろになる。

「大丈夫、大丈夫。まあゆっくりして」
「はい!ありがとうございます」

先生は座って授業の準備を始めた。
普通は助教とか院生がするのにな。

「真島さんのお嬢さんは…元気かな。流星くんの名前は覚えてるのに、お嬢さんの名前は忘れちゃったな」
「のぞみです。元気です。いま、看護学部にいます」
「ほう。看護学部に。仲良くしてるんだ」
「はい…一応…」
「そうか。うん、そうか」

開け放した窓から、初夏の風が流れてきた。

「あの時、すみませんでした!あの病気は、あの頃まだ治療法が確立されてなくて、それなのに、僕は…」
「流星くん」
「はい」
「君は、それを勉強するために来たんだろ?」
「…そうです。どうしても!」
「頑張ろう。一緒に」

…やっと、一歩踏み出せた気がする。



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