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20年 あなたと歩いた時間

第12章 君が生きた日々

医学部といえど、今年は高校の延長のような
授業が多い。クラスもほとんど男で、理数科と
大差はない。
それが僕には居心地よく感じられた。
大学は楽しかった。
陸上部に入って好きなだけ走り、同じ夢を
持った友達に囲まれて、毎日が飛ぶように
過ぎていった。

「なあ、流星?」
「ん?」
「次、休講やん?ゲノム医工学いかん?」
「え、そんなことできんの?」
「教室、511やろ。デカイからバレへんて。おまえの好きな十河先生やん」
「行く!行く行く」

同じ県出身の圭介と仲良くなったのは、
入学してすぐの頃だ。同じ下宿の、隣の部屋に
住む。タイプとしては松井に面白い要素を
加えた感じ。
開業医の次男の夢は僻地医療に携わること
らしい。しかも、陸上部。
学食で定食をかっこんで、僕と圭介は
場所とりに走る。一般公開されている授業は
前列の取り合いが半端ない。
十河先生は有名人でもあるから尚更だ。

「早すぎた?」

階段教室にはまだ誰もいなかった。

「まあええやん。コーヒー買うてくるわ」
「あ、おれも頼む!」
「おー」

あー。眠い。授業のあとちょっと走って、
バイトに行って、勉強して読みたい本を
読んでいたらあっという間に夜中になる。
眠いから寝るのではなく、翌日の授業が
辛いから寝る、という感じだ。
できれば寝たくなんかない。

「お、熱心な学生だ」

教室の前のドアが開いた。
僕はほとんど反射的に立ち上がり、頭を
下げた。

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