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20年 あなたと歩いた時間

第12章 君が生きた日々

多分いま、のぞみの目にはめちゃめちゃ
カッコよく映っているのだろう、と思う。
いや、全然違う。恥ずかしいくらい、違う。
なんかここまで自分の感情を隠せるなら、
俳優かなんか目指したほうがよくないか?
いま、今さ。本当は…
…ヤりたい。

下品で、身もフタもない言い方しかできない
自分が、本当に医学部に合格したのかどうか
疑いたくなる。
目の前でこんなかわいい彼女が、僕のことを
かっこいいと連呼する。
受験生でなくなった僕の頭の中はもう、
のぞみのことでいっぱいだ。
ふたりだけの、ささやかな合格祝い。京都で
買ったチョコレートしかないけれど、そんな
ものは今の僕にとってチロルチョコと大差はない。
僕は邪念を追い払うべく、音楽でもかけようと
CDを手に持った。

「流星、いつの間に大人になったの?」
「え?」

なんだなんだ。

「私、今まで何度もそう思ってきた。大きな手も、長い脚も、低めの声も。どれも、子どもの頃の流星にはなかった。流星はどんどん大人になるのに、私は全然変わんないよ」

ちょっと、待て。

「私、そんな流星を見てたら早く私も大人になりたくて、」
「のぞみ、 おれは全然大人じゃないよ。今だって自分の気持ちをなかなか言えなくて、へんな行動してさ…それにまだ何にもできてない。大学に受かっただけじゃん。それに、のぞみだって変わったよ。柔らかくてあったかくて…おれ、いつものぞみのこと抱きしめたいって思ってる」

素直な、本当の気持ちだ。それにのぞみの方が
ずっとずっと大人だよ。

「のぞみをおれのものにしたい」

一気に言って、素早く唇を合わせた。
顔が、熱い。
それを気づかれたくなくて。長く。

「…って言うのにどれだけかかったと思ってんだよ」

今度は、深く。
その小さないとおしい頭を抱えて、深く。
何度も。
息が、身体が、心が、熱い。
合わせた唇から、震える気持ちが伝われば
いいのに…。
のぞみ、のぞみ。
のぞみを抱きしめるこの腕に、僕が思う全ての
愛を込める。
離さない。絶対に。
たとえ先に僕の命がついえても、必ず君を
守ってみせる。
どんなかたちに変わろうとも。

「…愛してる。のぞみ」

そして、僕らはひとつになった。

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