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20年 あなたと歩いた時間

第12章 君が生きた日々

行くとしたら、あの神社だろう。そして相手は
桐野なんだろう?
もういやだ。
こんな思いをするのは、いやだ。

「のぞみー!」

やば、これ自己新のタイム出たときみたいな走り。

「のぞみ!待って…」

僕はのぞみの腕をコートの上からつかんだ。

「流星…どうしたの?」
「あのさ、えと…行くなよ。その…約束」
「…なんで」
「行かせたくないんだよ。いやなんだよ、のぞみが桐野といるの」

もう、全部吐き出してしまいたい。
のぞみがいなければ、僕は何も手につかない
こと。
のぞみがいなければ、なんか面倒くさい人間に
なりそうなこと。
のぞみがいなければ、のぞみのことばかり
考えること。

「気づいた。おれ、のぞみがいないとダメだ。全っ然ダメ。何もできない」
「…私も流星じゃないとダメ!全然楽しくない!」

さっき僕は、ベランダの柵を軽々と飛び越えて
最短で君のもとへ行きたかった。
でも残念ながらそんな能力はないから、
いそいで階段を降りて玄関を開け、おもてに
飛び出した。死ぬほど走った。
そして、追い付いた。
触れた髪はやわらくて、相変わらずつめたく
花の香りがした。懐かしい思いが身体中に
満ちていく。

「おれも…全っ然楽しくなかった…ていうか、もう拷問。やだ、こんなの」

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