テキストサイズ

20年 あなたと歩いた時間

第12章 君が生きた日々

「流星ー、初詣行く?」

大晦日の午後11時半。姉ちゃんが、ちゃんと
部屋をノックしてからドアを開けた。
一度はキレてみるものだと思う。

「いや、いい。みんなで行ってきて」
「ん。お守り買ってくる」
「はいよ」

年が明けたら間もなくセンター試験だ。
受験勉強の追い込み…と言っても、もう
ここからは体調管理を怠らないとか、
できるだけ心穏やかに過ごすとか、
そのくらいしかできないような気がする。
ここまで頑張ってきたんだ。もうなるように
なるだろう。
家族で年越し蕎麦を食べ、毎年恒例の初詣は
パスして久しぶりに夜空を眺めた。
新月の凍えそうな空に、くっきりといくつもの
星が瞬く。早いな。あっという間に真冬だ。
ベランダの柵にもたれて、背中をのけぞらせて
見る星空が、視界いっぱいに広がる。

「流星っ!」

その時、下から声がした。

「…勉強、してた?」
「いや…休憩」

たぶん、バカみたいにボーッとした顔を
していたと思う。それくらい、不意討ち。
のぞみが、息を切らして僕を見上げていた。
午後11時50分。あと10分で今年が終わる。
18歳。高校3年生の。

「来年もいい年になるといいね!」
「ああ、うん!きっとなるよ」

…調子のいいこと言ったな、いま。
地球が滅びることを祈ってるやつが、
来年のことを考えてるよ。

「のぞみは…のぞみは、いい年だった?今年」
「…うん。うん、そう思いたい!」
「上がってこいよ。寒いだろ」
「ん…でも。約束してるから、行くね」
「あー、そっかそっか。うん、じゃあな、また学校で。来年!」
「うん!」

のぞみは、街灯の下でマフラーをあごまで
引っ張り上げ、歩き出した。
僕はベランダからのぞみを見ていたが、
のぞみは次の街灯まで一度も振り返らな
かった。
はきだしの窓ガラスをピシャッと閉めて、
僕はまた勉強に戻った。
…でも、だめだ。
約束って、何だよ。
また学校で、来年、って何だよ。
何なんだよ、全部。
僕はダウンジャケットを手に、階段を
かけおりた。
なめんなよ、この俊足を!

ストーリーメニュー

TOPTOPへ