
20年 あなたと歩いた時間
第12章 君が生きた日々
理数科の教室と理科室の奥は、外階段がある。
そこでは、よく誰かが誰かに告白していた。
僕も実は何度か呼ばれたことがあって、名前も
知らない女の子に付き合ってほしいと言われた。
断っても、多分落ち込むのはほんの短い時間で
季節が変わる頃、その子は他の男と仲良さそうに歩いていた。
高校生活は、思っていたそれとは、まるで
違った。もっと平坦でもっと穏やかで、
体の内側がささくれるようなことなどないと
思っていた。
違う。
自分は、もっとうまくやれると思っていた。
平坦ではなく、穏やかではなく、
心をささくれるようにしたのは、
自分だった。
でも、その道を転びながらでも歩き、その心を
修復する術を知ったのもまた僕だった。
頑張ったよな。
まだ、何もできていないけど、頑張ったよな。
「流星!なにしてんだー?」
川辺先生が、グラウンドから僕の名前を
呼んだ。ジャージを着て、走る気満々だ。
「もうすぐ卒業だなーと思って、感傷に浸ってる」
先生は笑って手を挙げたら、そのまま走って
いった。
のぞみは今、何をしているだろう。
この寒くて乾いた空気を、のぞみも吸って
いるのだろうか。
僕は自転車に飛びのった。
いま言わなければもう、この細い糸は切れて
しまう気がした。
根拠なんてなくて、今でなくてはいけない
理由もなくて、ただ気づいたのだ。
僕が見ていた景色には、いつものぞみがいた。
のぞみの気配が希薄になるのには耐えられても
いなくなるのは想像できない。
のぞみが、僕の前からいなくなったことが
ないから、想像がつかない。
のぞみ。のぞみ。
僕は、声に出してしまいそうなその名前を
飲み込み、空回りしそうになりながら、
ペダルを漕いだ。
そこでは、よく誰かが誰かに告白していた。
僕も実は何度か呼ばれたことがあって、名前も
知らない女の子に付き合ってほしいと言われた。
断っても、多分落ち込むのはほんの短い時間で
季節が変わる頃、その子は他の男と仲良さそうに歩いていた。
高校生活は、思っていたそれとは、まるで
違った。もっと平坦でもっと穏やかで、
体の内側がささくれるようなことなどないと
思っていた。
違う。
自分は、もっとうまくやれると思っていた。
平坦ではなく、穏やかではなく、
心をささくれるようにしたのは、
自分だった。
でも、その道を転びながらでも歩き、その心を
修復する術を知ったのもまた僕だった。
頑張ったよな。
まだ、何もできていないけど、頑張ったよな。
「流星!なにしてんだー?」
川辺先生が、グラウンドから僕の名前を
呼んだ。ジャージを着て、走る気満々だ。
「もうすぐ卒業だなーと思って、感傷に浸ってる」
先生は笑って手を挙げたら、そのまま走って
いった。
のぞみは今、何をしているだろう。
この寒くて乾いた空気を、のぞみも吸って
いるのだろうか。
僕は自転車に飛びのった。
いま言わなければもう、この細い糸は切れて
しまう気がした。
根拠なんてなくて、今でなくてはいけない
理由もなくて、ただ気づいたのだ。
僕が見ていた景色には、いつものぞみがいた。
のぞみの気配が希薄になるのには耐えられても
いなくなるのは想像できない。
のぞみが、僕の前からいなくなったことが
ないから、想像がつかない。
のぞみ。のぞみ。
僕は、声に出してしまいそうなその名前を
飲み込み、空回りしそうになりながら、
ペダルを漕いだ。
