
20年 あなたと歩いた時間
第12章 君が生きた日々
のぞみの存在が僕の日常の中から希薄になって
いく。
でもそれは思っていたほど耐え難いものでは
なかった。
期末テストが終わると通常の授業はなくなり、
冬休みの間までは自由登校になる。
この期間が、僕は何となく好きだった。
普段は何もせずにいることが落ち着かない
性分なのに、この期間だけは家にいても
学校にいても、焦ることがなかった。
「川辺せんせー」
進路指導室には矢野という現国の先生しか
いなかった。なんだ。なんか暇。
あと2か月もすれば卒業式だ。国公立大学を
受ける生徒が多いため他の高校よりも卒業式は
毎年早い。
僕は校内をぶらぶら歩いた。グラウンドでは
サッカー部と陸上部が使っていて、ボールを
蹴る鈍い音が聞こえる。
グラウンドに面している駐輪場を歩いた。
ここにとめた自転車の荷台にのぞみは座って、
僕を待っていた。陸上部の練習を見ながら、
のぞみは僕が走っていた姿をそこに重ねて
いた。
端まで来ると冬場は使われることのない
プールがある。
水面は枯れ葉に覆いつくされている。
人目につかないこの場所で、僕とのぞみは
初めてキスをした。晴れた寒い朝だった。
駐輪場からつながる校舎は英語科棟で、僕は
めったに来ることはなかった。
真緒とも校内で会うことは稀だった。
生徒の大半が女子の英語科は、誰もいないのに
甘い匂いがした。
渡り廊下を過ぎた向こうは普通科棟で、
一番大きな校舎は僕ら理数科から見ても
楽しそうなクラスがたくさんあった。
その中にのぞみや要がいた。
文化祭も体育祭も、学校行事で燃えるのは断然
普通科で、その情熱はうらやましくもあった。
長い廊下の終わりまで来ると、その先は僕が
3年間を過ごした理数科棟だ。
一番古くからある校舎で、おまけに男ばかりで
地味なエリアだと敬遠されていた。
でも、どのクラスよりも純粋でアツいやつらが
いた。先生もそうだった。
いく。
でもそれは思っていたほど耐え難いものでは
なかった。
期末テストが終わると通常の授業はなくなり、
冬休みの間までは自由登校になる。
この期間が、僕は何となく好きだった。
普段は何もせずにいることが落ち着かない
性分なのに、この期間だけは家にいても
学校にいても、焦ることがなかった。
「川辺せんせー」
進路指導室には矢野という現国の先生しか
いなかった。なんだ。なんか暇。
あと2か月もすれば卒業式だ。国公立大学を
受ける生徒が多いため他の高校よりも卒業式は
毎年早い。
僕は校内をぶらぶら歩いた。グラウンドでは
サッカー部と陸上部が使っていて、ボールを
蹴る鈍い音が聞こえる。
グラウンドに面している駐輪場を歩いた。
ここにとめた自転車の荷台にのぞみは座って、
僕を待っていた。陸上部の練習を見ながら、
のぞみは僕が走っていた姿をそこに重ねて
いた。
端まで来ると冬場は使われることのない
プールがある。
水面は枯れ葉に覆いつくされている。
人目につかないこの場所で、僕とのぞみは
初めてキスをした。晴れた寒い朝だった。
駐輪場からつながる校舎は英語科棟で、僕は
めったに来ることはなかった。
真緒とも校内で会うことは稀だった。
生徒の大半が女子の英語科は、誰もいないのに
甘い匂いがした。
渡り廊下を過ぎた向こうは普通科棟で、
一番大きな校舎は僕ら理数科から見ても
楽しそうなクラスがたくさんあった。
その中にのぞみや要がいた。
文化祭も体育祭も、学校行事で燃えるのは断然
普通科で、その情熱はうらやましくもあった。
長い廊下の終わりまで来ると、その先は僕が
3年間を過ごした理数科棟だ。
一番古くからある校舎で、おまけに男ばかりで
地味なエリアだと敬遠されていた。
でも、どのクラスよりも純粋でアツいやつらが
いた。先生もそうだった。
