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20年 あなたと歩いた時間

第12章 君が生きた日々

桐野はアップシューズを持っていた。
ほら、立てよと言って僕の腕をつかむ。
後輩にスターターを頼み、僕と桐野は
スタートラインに立った。
これ、勝ったら。
勝ったら言おう。もう一度。
ピッ!
ホイッスルが鳴り、弾かれたように走り出す。
あ。
桐野の振る腕が見えたかと思うと白いシャツの
肩が見え、背中が見えた。
あっという間に桐野は僕を抜いてゴールした。

「…んだよ、手ぇ抜くなよ」

桐野は膝に手をついて、肩で息をしていた。

「抜いてねーよ」

いや、少しだけ抜いたかも。だって彼女の前で
かっこいいとこ見せたいだろ?桐野。

「息、上がって、ないだろーが。バカ」
「あ…」
「真島さんと別れなきゃなんねーじゃん」
「は?何言ってんの?」

教室から、僕が走るのを見ていたのぞみは、
桐野に僕と競ってこいと言った。
それで桐野が負けたらそのままつきあう。
桐野が勝ったら別れようと言ったらしい。

「…なんちゅう賭けをしてんだよ。じゃあ、おまえこそ手ぇ抜けって」

そう言いながら、僕も自分に賭けをした。
桐野とスタートラインに立った瞬間、考えた。
勝ったらのぞみともう一度向かい合おう、と。
負けたら、のぞみの幸せは桐野に託そう、と。
…負けた。久しぶりに、誰かに負けた。

「そういうことだから。あー!1回でいいから流星に背中見せたかったんだよなースッキリしたー!」

デカい声で叫びながら、桐野はグラウンドを
去っていく。

「待てよ!復讐はどうしたんだよ!」
「もういいや。やめた!」
「ごめん!おれ、桐野が大好きだ!」

グラウンドにいた全員の動きが止まった。
誤解…された?

「違う!そうじゃなくて!」
「違わなきゃ困るだろっ」

言いたいのは、そうじゃなくて。

「ありがとう、桐野」


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