
20年 あなたと歩いた時間
第12章 君が生きた日々
「昨日は悪かったな、びっくりさせて」
翌朝、靴箱で声を掛けてきたのは渡辺だった。
「ああ、うん。色々あるよな」
「…何も聞かないんだ?」
「…話したいんだったら聞く」
「おまえ、面白いな」
180cmの僕より目線が高い。いや、
伸びたんだよな、高校入ってから。
理数科は男子ばっかりで、教室の中は汗臭くて
下世話な話題が飛び交って、色恋の似合わない
空間だ。教室以外で会わないやつとそんな話を
するのがこそばゆい。聞くに聞けない。
「じゃあな」
「うん」
なんだ。話すのかと思った。
随分クールなやつだ。
気の早い女子はもう、コートを着て登校して
いる。秋が、終わる。
高校の3年間は短かった。中学よりもずっと。
何だか全部が中途半端だったような気がする。
川辺先生は、僕らはまだまだ何も決まって
いないと言った。それはきっとどんな可能性も
あるということ。何にでもなれるということ。
でも僕は何も決まっていなくて、不安になる。
何をどうすればいいのか、時々わからなく
なる。
スタートとゴールの決まっている100mは、
何も怖くなかった。
あの100mの中に、全部があった。
僕はもう一度靴を履き、グラウンドに出た。
朝練している顔見知りの陸上部員に声をかけて
靴を借りた。
少しでいい。
怖くない場所へ。
いやなこと、全部自分の後ろに流れていけ!
欲しいもの、全部手に入れろ!
「やっぱ速いっすね、小野塚先輩」
「いや…しんどいかも」
「アップも何もしてないじゃないっすか!そりゃしんどいっすけど、それでも速いっす!」
「…サンキューな」
久しぶりにむちゃな全力走をして息が上がる。
ああ、でも気持ちいい。
「…このまま、風になりたい…って歌あったよなー…」
「あったな」
ひとりごとに返事をされて、びっくりした。
振り返ると桐野がいた。
「…朝っぱらから、かっこいいことすんなよ」
「え…ただ走っただけ…」
「それがかっこいいっつってんだよ。おれの彼女が釘付けなっただろ」
「おまえの彼女…」
のぞみのことか。
のぞみと桐野のクラスからは、グラウンドが
よく見える。
「勝負しろよ」
「…おれに関わらないんじゃなった?」
「これで最後。したら、関わらない」
翌朝、靴箱で声を掛けてきたのは渡辺だった。
「ああ、うん。色々あるよな」
「…何も聞かないんだ?」
「…話したいんだったら聞く」
「おまえ、面白いな」
180cmの僕より目線が高い。いや、
伸びたんだよな、高校入ってから。
理数科は男子ばっかりで、教室の中は汗臭くて
下世話な話題が飛び交って、色恋の似合わない
空間だ。教室以外で会わないやつとそんな話を
するのがこそばゆい。聞くに聞けない。
「じゃあな」
「うん」
なんだ。話すのかと思った。
随分クールなやつだ。
気の早い女子はもう、コートを着て登校して
いる。秋が、終わる。
高校の3年間は短かった。中学よりもずっと。
何だか全部が中途半端だったような気がする。
川辺先生は、僕らはまだまだ何も決まって
いないと言った。それはきっとどんな可能性も
あるということ。何にでもなれるということ。
でも僕は何も決まっていなくて、不安になる。
何をどうすればいいのか、時々わからなく
なる。
スタートとゴールの決まっている100mは、
何も怖くなかった。
あの100mの中に、全部があった。
僕はもう一度靴を履き、グラウンドに出た。
朝練している顔見知りの陸上部員に声をかけて
靴を借りた。
少しでいい。
怖くない場所へ。
いやなこと、全部自分の後ろに流れていけ!
欲しいもの、全部手に入れろ!
「やっぱ速いっすね、小野塚先輩」
「いや…しんどいかも」
「アップも何もしてないじゃないっすか!そりゃしんどいっすけど、それでも速いっす!」
「…サンキューな」
久しぶりにむちゃな全力走をして息が上がる。
ああ、でも気持ちいい。
「…このまま、風になりたい…って歌あったよなー…」
「あったな」
ひとりごとに返事をされて、びっくりした。
振り返ると桐野がいた。
「…朝っぱらから、かっこいいことすんなよ」
「え…ただ走っただけ…」
「それがかっこいいっつってんだよ。おれの彼女が釘付けなっただろ」
「おまえの彼女…」
のぞみのことか。
のぞみと桐野のクラスからは、グラウンドが
よく見える。
「勝負しろよ」
「…おれに関わらないんじゃなった?」
「これで最後。したら、関わらない」
