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20年 あなたと歩いた時間

第12章 君が生きた日々

翌日。
僕は昨日から、何をどうやり直せばいいのか
考えていた。要も真緒も、のぞみも桐野も。
全部僕のせいでぎくしゃくしたままだ。
誤解でも何でもなく、全ては僕の間違えた
行動が引き起こしたことだ。
謝りたおして許してもらうしかない。
それすら聞いてもらえるかどうかわからない。
それでも伝えるしかない。大切な友達なんだ。
失いたくない。

「先生。ありがとう、昨日も」
「うん。おれって結構アツかったよな?な?」
「うん…先生、普段からアツいけど、昨日は隣に座っててマジ、熱が伝わってきた」

今日は用もないのに、数学教官室に来た。
まだ四時だというのに、西の空は暮れかけて
秋が深まっていることを知らせる。
ここからは、グラウンドが見えて野球部の
意味のない掛け声がひっきりなしに聞こえる。
今年、野球部は県大会の決勝で敗れた。
投手だった渡辺は同じクラスだ。悔しかっただろうな。
甲子園に行く最後のチャンスだったのに。

「渡辺、どこ受けるんだろ。先生、知ってる?」
「知ってるけど、言っていいのかな。ま、あいつも流星みたいなタイプだな。しかも今、女がらみでモメ中」
「ちょ、先生なんで知ってんの?!」
「はは、見てりゃわかるさ。加納って、めっちゃ怖いな!けどさ、流星はこれからなんだよ。まだまだ何にも決まってないんだよ。人生どうにでもできる。それってすごいことだよ」
「…そうだね」
「諦めるな、全部」
「先生…」
「全部、手に入れていけよ。どれも、取りこぼすなよ!」
「…はい!」

教室に置きっぱなしの鞄を取りにいくと、
その渡辺がいた。一緒にいるのは、渡辺と
バッテリーを組んでた甲斐だ。
たしか、のぞみと同じクラス。二人とも、
髪が伸びた。

「…ちーっす…ちょっとごめん、鞄」

無言で教室に入るのも何かと思い、一応声を
かけた。なるほど。モメ中な。
人のこと言えねーけど。
さっさと鞄を持って教室を出た瞬間、ガタガタ
っと大きな音がした。戻って教室を覗くと、
甲斐が床に倒れていた。

「渡辺っ!」

僕はとっさに叫んだ。

「ごめん。ちょっと色々あって…大丈夫だから」
「…うん」

その場を離れるしかなかった。しかもさっき
『渡辺』って、叫んだな。
倒れたのは甲斐なのに。あー、ヤバイ。
自分に重ねてた。
僕は自転車をこぎながら、要のうちに寄ろうと
思った。



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