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20年 あなたと歩いた時間

第12章 君が生きた日々

暗くなったグラウンドに這いつくばって、
なくしたスパイクのピンを探した。
どうやったら、もっと速くなるか、
どうやったら先輩に勝てるか、そんなこと
ばっかり話していた、14歳の僕と桐野。

「部室から声が聞こえて…あんなが声を出してるの初めて聞いた。…もう、流星には何も勝てないんだなと思ったよ。だから、夏休みに偶然真島さんに出くわした時に言ってやったんだ。流星の大切なもの、傷つけてやるって決めた」

夏休み…見舞いに来てくれた日。
あの日、のぞみは桐野に会ったと言っていた。
インターハイ予選以来会ってないから
心配していた、と。
あの時、のぞみは知っていた…?

「まだあんなのこと、好きだった…知ってただろ?知っててあーいうこと、するかな?そんなやつが真島さんみたいないい子と付き合ってるとか、ありえねーよ。しかも、流星が振った?どこまで調子に乗りゃ気が済むのかと思ったよ」

桐野のジャケットには、枯草がいっぱい
ついていた。満月に照らされた川面がキラキラ
輝いて、こんなドロドロした二人は
似つかわしくなかった。

「部室で後輩とヤッてたの、知られたのがおれで良かったと思え」

僕は桐野のオレンジ色のクロノインクスを
思い出していた。
無造作に置き去りにされたスパイクに、僕は
無言の試合放棄を感じた。
スプリンターにとって、これだけが、一緒に
風になってくれるものなのに。

「あれ、わざと置いた。スパイク脱いで勝負したかった。宣戦布告のつもり」

宣戦布告。僕への報復。
それくらい、桐野にとってあの出来事は…。

「…ごめん。謝って済むもんでもないけどさ…おれから大切なもの、奪うのは構わない。けど、傷つけてやるとかやめてくれ。のぞみを傷つけるのだけは…」

全部全部、後悔と言うには遅すぎた。
部活の楽しみもしんどさも共有した桐野を、
僕は。
あれだけ僕のことを心配してくれた桐野を、
僕は。

「頼むから…傷つけないでくれ。おれのことはどんだけ殴ってもいい。どんだけ中傷してもいい。だけど、のぞみは関係ねーだろ…」
「だって、それが一番、流星にとってツラいじゃん。違う?」

桐野はなおも畳み掛けた。裏切り。
そのことに対する復讐。

「そんだけ。言いたいこと…もう、流星とは関わらないから」

そう言って、桐野は僕の前から消えた。

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