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20年 あなたと歩いた時間

第12章 君が生きた日々

学校で、桐野に見られるのがいやでのぞみには
話しかけられなかった。
さんざん迷って、電話したら留守だった。
それでもまだ気になって、のぞみの家まで
来てしまった。
2階の、のぞみの部屋はカーテンの隙間から
あかりがついているのが見えた。
小さな石を探して拾う。
僕はその石を持ったまま、結構な時間、2階を
見上げていた。ここから見える窓際にのぞみの
勉強机があって、勉強しているならこの小石を
投げればすぐに気づくだろう。
昼間、真緒が言ったことがずっと引っ掛かって
いた。

『のぞみは、流星といるときが一番楽しそうなの!』

果たして本当だろうか。
それから、桐野と付き合い始めたというのも。
桐野は野嶋と別れたあとも、未練たっぷりな
感じだった。
野嶋と関係したことに対する腹いせだ。
そんなのにのぞみを利用されてたまるか!
その時、2階のあかりが消えた。
まさかもう寝る?にしては、早すぎる。
もうしばらく様子を見るか、正々堂々と
チャイムを鳴らして、のぞみと話すべきか。
そんなことを考えていると、玄関のドアが
開いた。
出てきたのは制服のままの桐野だった。
僕に背中を向けて家の中にいるのぞみと
話していた。
玄関のドアが閉まる音を聞いてから声を
かけた。

「…流星か。なに?」
「ちょっと」

どこに向かっているのか、何を話すつもり
なのかわからないまま河原を歩いた。
沈黙を破ったのは桐野だった。

「…真島さんいい子なのに、なんで別れた?かわいいし、やさしいし、付き合ってもない男とヤッたりしないし」

最後は笑いをこらえたような言い方をしたのが
限界だった。
気がつくと僕は桐野を殴っていた。
目の前に頬を押さえた桐野が転がっていた。

「なんで、おれが殴られんの?おれ、ちゃんと真島さんに付き合ってって言ったよ。おまえは彼女でもないやつと寝ただろ!都合良すぎるんじゃねえの!?」
「…言っとくけど、股開いたのは野嶋だよ?何度もせがんだのは野嶋だよ?桐野先輩より全然気持ちいいってな!」

なんで、なんで。桐野は一度も殴り返して
こない。

「…中学時代から、背中ばっか見てた。おまえはめっちゃ速かった。追い越すどころか追い付きもしなかった。でもまた一緒に走って、色んなこと話してくれてうれしかった。けどインハイ予選の日…」

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