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20年 あなたと歩いた時間

第12章 君が生きた日々

「おれ、絶対医者になる」
「おう」

先生は手を止めて、僕のほうを向いて
うなずいた。誰かに宣言することで、この
意思を本物にしていこうとした。

「なあ流星」
「はい」
「なんで医者にこだわるんだ?」
「…面倒くさいやつと思わん?」
「思わん思わん」
「理由はいくつかあるんだ。のぞみのお母さん、おれたちが11歳の時に病気で亡くなったんだけど」
「あ、この前真島に聞いた」
「うん。そん時の主治医が京都医大の十河教授でさ。かっこよかったんだ」
「へえ」
「あとは、うちの酒蔵、四年前に倒産してるからさ、食いっぱぐれしなさそうな職業に就きたいのと」
「ほう」
「…のぞみのお母さんの病気、女性に遺伝しやすい難病だったんだ。のぞみがかかる確率は1/4 」
「…そうか」
「生きてほしい。のぞみには絶対に生きていてほしい。死ぬかも、なんて怖いことに直面させたくない」

本当はそれだけだ。それが全てだ。のぞみが
誰としあわせになろうと、僕は耐えられる。でも、あんな怖い思いはさせたくない。

「おまえ、なかなかカッコイイな」
「…ぶへっ」

僕は飲んでいた缶コーヒーを吹いた。

「おれも、女だったらおまえに惚れるかもな」
「ちょ…そういうの言わんで!反則!」
「あはははは、おもしれ」
「帰る!ここに来たら洗いざらいしゃべらされる!」

僕はリュックを肩にかけ、数学教官室を出た。
心が、浄化されていく気がした。

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