
20年 あなたと歩いた時間
第12章 君が生きた日々
「あ!蝉の声が変わった!」
川沿いに自転車を走らせていると、背中で
のぞみが叫んだ。
9月も中旬になると、アブラゼミやクマゼミに
かわって、ツクツクボウシやヒグラシの声が
聞こえてくる。
「それはさ、声が変わったんじゃなくて蝉の種類が違うんだよ」
のぞみは子どもの頃から虫が嫌いだ。
でも蝉にだけはなぜか反応する。
「知ってるよ、そんなこと」
「んだよ、知ってんのかよ」
また黙って、僕は自転車を走らせる。
まだ迷っている。
迷っているから口数が少なくなる。
そんな僕の様子を察してか、のぞみもあまり
しゃべらない。
だからなのか、蝉の声が変わった、と言った時
自分の声が不自然な音量だったことにのぞみは
気づいていただろうか。
のぞみとちゃんと付き合い始めてから、僕は
くだらない気遣いをのぞみにさせていたような気がする。
自分でも気づいている癖がある。
機嫌が悪いときに何か聞かれると、答えずに
また疑問で返してしまう。
そういうのに、のぞみはすごく敏感で、すぐに
黙ってしまう。
「…ゆうべ、いてくれてありがとう」
「うん…」
「安心した」
「…ん」
話せば話すほど、僕は自分が苦しくなる。
それが、嫌で逃げようとしているのかも
しれない。
自分がした過ちから、目を反らせたいだけ。
「のぞみ」
「ん?」
「…別れよう」
「…流星…」
「もう、終わり」
「…うん」
僕の人生にのぞみがあらわれて、14年。
いわゆる恋人同士だったのは、そのうちの
2年。たった2年。
でも、一番輝いていた2年だった。
自分を知った、2年だった。
「もう少し、ここにいる。流星は先に帰って」
「わかった。自転車、乗れよ。夜にでも取りに行くから、外に出しておいて」
「うん…」
僕とのぞみは、こうして終わった。
はたから見れば、何てことのない高校生の
子どもの恋。
それが始まろうと終わろうと、世界には
何一つ影響はない。
でも、両脚をもぎとられたランナーは、
こんな気持ちかもしれないと思った。
川沿いに自転車を走らせていると、背中で
のぞみが叫んだ。
9月も中旬になると、アブラゼミやクマゼミに
かわって、ツクツクボウシやヒグラシの声が
聞こえてくる。
「それはさ、声が変わったんじゃなくて蝉の種類が違うんだよ」
のぞみは子どもの頃から虫が嫌いだ。
でも蝉にだけはなぜか反応する。
「知ってるよ、そんなこと」
「んだよ、知ってんのかよ」
また黙って、僕は自転車を走らせる。
まだ迷っている。
迷っているから口数が少なくなる。
そんな僕の様子を察してか、のぞみもあまり
しゃべらない。
だからなのか、蝉の声が変わった、と言った時
自分の声が不自然な音量だったことにのぞみは
気づいていただろうか。
のぞみとちゃんと付き合い始めてから、僕は
くだらない気遣いをのぞみにさせていたような気がする。
自分でも気づいている癖がある。
機嫌が悪いときに何か聞かれると、答えずに
また疑問で返してしまう。
そういうのに、のぞみはすごく敏感で、すぐに
黙ってしまう。
「…ゆうべ、いてくれてありがとう」
「うん…」
「安心した」
「…ん」
話せば話すほど、僕は自分が苦しくなる。
それが、嫌で逃げようとしているのかも
しれない。
自分がした過ちから、目を反らせたいだけ。
「のぞみ」
「ん?」
「…別れよう」
「…流星…」
「もう、終わり」
「…うん」
僕の人生にのぞみがあらわれて、14年。
いわゆる恋人同士だったのは、そのうちの
2年。たった2年。
でも、一番輝いていた2年だった。
自分を知った、2年だった。
「もう少し、ここにいる。流星は先に帰って」
「わかった。自転車、乗れよ。夜にでも取りに行くから、外に出しておいて」
「うん…」
僕とのぞみは、こうして終わった。
はたから見れば、何てことのない高校生の
子どもの恋。
それが始まろうと終わろうと、世界には
何一つ影響はない。
でも、両脚をもぎとられたランナーは、
こんな気持ちかもしれないと思った。
