
20年 あなたと歩いた時間
第12章 君が生きた日々
「ん…まぶし…」
あ。のぞみん家か。え?いま何時だ?!
「おはよ。寝られた?こんなとこで」
壁の時計は7時45分を指していた。
今からダッシュで家に帰ってギリギリ間に合う
かな…
振り返ると、のぞみがすっきりした笑顔で
焼き上がったパンをトースターから取り出して
いた。
「あ…熱!熱は?下がった?」
そうだった。真緒から電話があって、
のぞみの家に来て、ここでアルバムを見てたら
うとうとして、寝てしまったんだな。
「寝ぐせ。かわいい」
僕のハネた髪をさわってのぞみはまた笑った。
僕は、わかりもしないのにのぞみのおでこに
手のひらを当てた。
「下がった?」
「うん」
「じゃあ帰る。学校遅れる」
「え、朝ごはんは?今日、日曜日…」
「マジか…」
なんだ。日曜日か。僕は急に気が抜けて、
ダイニングの椅子に座り込んだ。
「紅茶がいい?コーヒー?」
「こ…コーヒー、お願いします」
…なんか照れる。なんだ、これ。
キッチンの窓から朝日がさして、淹れたての
コーヒーに焼き立てのトーストとか…
平和すぎて、勘違いしそうだ。
「あ。目玉焼きは半熟?かたいの?」
「は、半熟」
「はい。じゃあこっちね」
僕はこのことを一生忘れないだろうと思った。
18歳のバカな男が、何もかもを水に流す勇気を
持っている女の子と、食べた朝食を。
「…うま」
「…昨日、『熱が下がったらちゃんと話そう』って言ってたこと、なに?」
のぞみは自分のパンにバターを塗りながら
言った。
「…あ。あとで外行こうか。気持ちよさそうだし。病み上がりだし、自転車の後ろに乗ればいいよ」
「うん!行こう」
僕は、迷った。
いまこの選択は果たして正しいのか。
それはただ、自分のためだけの選択なんじゃ
ないだろうか。
のぞみをこれ以上傷つけないためなのか、
この選択がのぞみを傷つけてしまうのか、
それは解けなかった数学の証明よりもはるかに
難解だった。
僕は迷った。悩むよりもずっとずるい方法で
迷っていた。
あ。のぞみん家か。え?いま何時だ?!
「おはよ。寝られた?こんなとこで」
壁の時計は7時45分を指していた。
今からダッシュで家に帰ってギリギリ間に合う
かな…
振り返ると、のぞみがすっきりした笑顔で
焼き上がったパンをトースターから取り出して
いた。
「あ…熱!熱は?下がった?」
そうだった。真緒から電話があって、
のぞみの家に来て、ここでアルバムを見てたら
うとうとして、寝てしまったんだな。
「寝ぐせ。かわいい」
僕のハネた髪をさわってのぞみはまた笑った。
僕は、わかりもしないのにのぞみのおでこに
手のひらを当てた。
「下がった?」
「うん」
「じゃあ帰る。学校遅れる」
「え、朝ごはんは?今日、日曜日…」
「マジか…」
なんだ。日曜日か。僕は急に気が抜けて、
ダイニングの椅子に座り込んだ。
「紅茶がいい?コーヒー?」
「こ…コーヒー、お願いします」
…なんか照れる。なんだ、これ。
キッチンの窓から朝日がさして、淹れたての
コーヒーに焼き立てのトーストとか…
平和すぎて、勘違いしそうだ。
「あ。目玉焼きは半熟?かたいの?」
「は、半熟」
「はい。じゃあこっちね」
僕はこのことを一生忘れないだろうと思った。
18歳のバカな男が、何もかもを水に流す勇気を
持っている女の子と、食べた朝食を。
「…うま」
「…昨日、『熱が下がったらちゃんと話そう』って言ってたこと、なに?」
のぞみは自分のパンにバターを塗りながら
言った。
「…あ。あとで外行こうか。気持ちよさそうだし。病み上がりだし、自転車の後ろに乗ればいいよ」
「うん!行こう」
僕は、迷った。
いまこの選択は果たして正しいのか。
それはただ、自分のためだけの選択なんじゃ
ないだろうか。
のぞみをこれ以上傷つけないためなのか、
この選択がのぞみを傷つけてしまうのか、
それは解けなかった数学の証明よりもはるかに
難解だった。
僕は迷った。悩むよりもずっとずるい方法で
迷っていた。
