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20年 あなたと歩いた時間

第2章 16歳

紺野さんは、長いスカートを
ひらひらさせて階段を降りていった。
流星と仲がいいのかな。
A組は女子が極端に少ないから、
男女が普通に仲良くしていても
不思議ではない。
多分、そんなノリなんだろうな。
普通科なら半々だし同性の友達は
できやすいけど、
理数科はそうも行かないのだろう。
逆に英語科はまるで女子校にいるみたいと真緒が言っていた。
私は目に入ったお弁当の本を
何冊か持ってベンチに向かった。
この書店は各階にベンチがあるので
ゆっくり読むことができる。その時、
背後から聞きなれた名前が耳に
飛び込んできた。

「…星も満更じゃなさそうだよな。あの紺野に気に入られてさ、嫌な訳がねえよ」
「女子が少ないって致命的だよな。やっぱり質より量だよな。ほとんど全員流星狙いだろ?」

…ちょっと待って。
この何分かで、
流星を取り巻く恋愛事情が
見えた気がするのは気のせい?
確かにこの街にはここしか
気の利いた本屋はないし、
市高の生徒が集まるのも確か。
いま聞こえた『流星と紺野さん』が
私の知ってる流星と紺野さんである確率は
極めて高いということは私でもわかる。
しかも、『ほとんど全員』が
『流星狙い』?

「ねえ、その話ほんと?」
「だ、誰?」

背後から割り込まれて驚く二人の男子は
思わず手にしていた参考書を閉じた。

「市高の一年生、真島のぞみ」
「真島?あー、聞いたことある。流星の幼なじみだろ」
「そう。ね、だから、さっきの話!」
「流星?あいつめちゃくちゃモテるよ。真島さん知らなかった?もしかして」

右側のメガネをかけた
いかにも理数科くんが言った。

「ありがとっ!」

私はなぜか、早く流星をこの本屋から
連れださなければならない気がして、
あわてて階段を降りた。
そして、私は気づく。
流星は、私だけの流星でいてほしいと。

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