
20年 あなたと歩いた時間
第12章 君が生きた日々
のぞみは物音ひとつ立てずに眠り続けていた。
途中何度かアイスノンやタオルを替え、
水を飲ませた。
でものぞみはずっと夢うつつで、ぐったりしていた。
僕は夜中じゅう起きているつもりで、
本棚にあるのぞみのお父さんの本を読んだ。
大学教授なのに堅苦しいところが全くない。専門は考古学だ。
トトロに出てくるメイとさつきのお父さん
みたい、と姉ちゃんが言っていた。
小難しい本に混じって、アルバムがあった。
厚い紺色の表紙には、『のぞみのおいたち』と
刺繍されている。
めくると、ちいさなちいさな産まれたばかりの
のぞみが眠っていた。
その下には僕の指の長さくらいの足形が押されている。
今はもういない、のぞみのお母さんが
赤ちゃんののぞみを抱いて庭で笑っている写真。
ろうそくが1本だけ立てられたケーキを、
触ろうとしているのぞみの写真。
自分と同じくらいの大きさのぬいぐるみを
引きずって、まっす ぐにカメラを見つめる
写真。
一面シロツメクサの野原で、風に吹かれて
笑うのぞみ。
ああ、僕に出会う前ののぞみは、こんな
女の子だったんだ。
余りある家族の愛情を一身に受け、大切に
大切に育てられた。
そして、さらにページをめくると、やっと
のぞみの人生に僕があらわれた。
『4歳。大好きな流星くんと。』
僕は、まぶしそうな顔をしてのぞみの手を
握りしめていた。
この時から、のぞみの手を引くのは僕だと、
ずっと思っていた。
走るのが遅いのぞみを引っ張ったのも、
木から降りられなくなったのぞみに差しのべたのも、
大切な人を失って泣きじゃくるのぞみを迎えに行ったのも、
指と指を絡めて手をつなぐことを覚えたときも。
全部、全部、僕のこの手だった。
まだなにひとつ掴めていないこの手で、
今まで何度のぞみに触れてきただろう。
この手で守りたい。
だけど、傷つけることだってできる…。
いま僕は、のぞみを傷つけている。
いっそのこと、離してしまえば、のぞみはもう二度と傷つかなくていいのに。
写真の中の4歳ののぞみは、満開の桜のように圧倒的な笑顔だった。
『のぞみちゃんは、ぼくのおよめさんになるんだよ』
『りゅうせいくん、およめさんってしってるの?』
『しってる。しぬまでたいせつにしたいおんなのこのこと』
途中何度かアイスノンやタオルを替え、
水を飲ませた。
でものぞみはずっと夢うつつで、ぐったりしていた。
僕は夜中じゅう起きているつもりで、
本棚にあるのぞみのお父さんの本を読んだ。
大学教授なのに堅苦しいところが全くない。専門は考古学だ。
トトロに出てくるメイとさつきのお父さん
みたい、と姉ちゃんが言っていた。
小難しい本に混じって、アルバムがあった。
厚い紺色の表紙には、『のぞみのおいたち』と
刺繍されている。
めくると、ちいさなちいさな産まれたばかりの
のぞみが眠っていた。
その下には僕の指の長さくらいの足形が押されている。
今はもういない、のぞみのお母さんが
赤ちゃんののぞみを抱いて庭で笑っている写真。
ろうそくが1本だけ立てられたケーキを、
触ろうとしているのぞみの写真。
自分と同じくらいの大きさのぬいぐるみを
引きずって、まっす ぐにカメラを見つめる
写真。
一面シロツメクサの野原で、風に吹かれて
笑うのぞみ。
ああ、僕に出会う前ののぞみは、こんな
女の子だったんだ。
余りある家族の愛情を一身に受け、大切に
大切に育てられた。
そして、さらにページをめくると、やっと
のぞみの人生に僕があらわれた。
『4歳。大好きな流星くんと。』
僕は、まぶしそうな顔をしてのぞみの手を
握りしめていた。
この時から、のぞみの手を引くのは僕だと、
ずっと思っていた。
走るのが遅いのぞみを引っ張ったのも、
木から降りられなくなったのぞみに差しのべたのも、
大切な人を失って泣きじゃくるのぞみを迎えに行ったのも、
指と指を絡めて手をつなぐことを覚えたときも。
全部、全部、僕のこの手だった。
まだなにひとつ掴めていないこの手で、
今まで何度のぞみに触れてきただろう。
この手で守りたい。
だけど、傷つけることだってできる…。
いま僕は、のぞみを傷つけている。
いっそのこと、離してしまえば、のぞみはもう二度と傷つかなくていいのに。
写真の中の4歳ののぞみは、満開の桜のように圧倒的な笑顔だった。
『のぞみちゃんは、ぼくのおよめさんになるんだよ』
『りゅうせいくん、およめさんってしってるの?』
『しってる。しぬまでたいせつにしたいおんなのこのこと』
