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20年 あなたと歩いた時間

第12章 君が生きた日々

二学期が始まった。
まだまだ体は本調子ではないけれど、
取りあえずは死にたいとか考えなくなった。
昨日、のぞみが大学の看護学部に推薦が
決まった。
たぶん、高校3年の一学期までの成績が、ほぼ
オール5でないと取れないような推薦だ。
そんなすごい推薦に、のぞみが決まった。
あいつ、どんだけ成績良かったんだ?
中学の時、苦労して不規則動詞を覚えていた
のぞみが。
でもそのことで僕は、本気で京都医大に行く
気が固まった。
合格したら、またのぞみと一緒だ。
その時、電話が鳴った。

「…もしもし、小野塚です」
『…あっ、流星?私、真緒』

真緒。めずらしい。
最近要から僕のことを聞いてか聞かずか、
それとも昔からなのか僕への風当たりが
きつい。

『ごめん、のぞみが熱出したらしくて、私に電話あったんだけど私今から塾でさ。のぞみのパパ、今日学会で泊まりなんだ。ねえ、流星ちょっと見てきて?なんやかんやであんたしかいないんだわ』
「…消去法でおれかよ」
『あったりまえでしょ?!前科一犯も二犯もあるやつにのぞみを任せられるかっつの!』
「は…ひでーな、おまえ」
『めちゃくちゃしんどそうだったから、なんかゼリーとか買って。あ、授業始まるから!頼んだよ!へんなことしないでよ!』
「ば、するかよ…おれは…」

電話は切れていた。
のぞみ、昨日は元気だったのに。気がつくと
僕は家の冷凍庫にあったアイスノンと、
『さとみ』と書かれたアイスクリームを
自転車のかごに突っ込んでいた。
いつの間にか、だるさはなくなり、痩せた体が
フットワークを軽くさせていた。

「流星…なんで」

玄関を開けたのぞみは、ドアに寄りかかる
ようにして立っていた。

「真緒から電話あって、のぞみんとこに行ってくれって…いや、もちろんおれが来たかったんだけどっ」

うしろめたさが、変な言い訳を言わせた。
のぞみは熱が高いのか、真っ赤な顔を
していた。

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