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20年 あなたと歩いた時間

第12章 君が生きた日々

「ただいま」
「あ。流星、スイカ食べる?スイカ。スイカなら食べられるでしょ。みて、このスイカ」

キッチンに続く廊下から、声だけ掛けて
2階に上がろうとすると、母さんが言った。
…スイカ、って何回言うんだよ。

「うん、食べる。着替えてくる」

息切れの原因は再発ではなかった。
検査をしても何も見つからず、僕は心療内科を
勧められた。薬を飲んで、何も考えずに
休養するよう言われた。
取りあえずは安心したが、相変わらずだるい。
体力が落ちるのも無理はない。
夏休みに入ってから、ほとんど寝てばかり
だったんだから。

「…こんなに食えねーよ」
「母さんも食べるの」

甘くて、冷たくて、懐かしい味がした。
夏休みの味。

「どうだった?先生、何て?」
「薬飲んで寝てりゃ治るってさ」
「そう。よかった」

僕と母さんは、ダイニングで向かいあって
黙々とスイカを食べた。真夏の昼間なのに、
ここはひんやりとしている。

「…母さん」
「ん?」
「おれ、どうしたんだろ…」
「そういう時もあるんじゃない?」
「…結構、キツいんだけどな…」

もうひとつ、スイカに手を伸ばしかけて、
やめた。

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